
日本の国民的娯楽のひとつになっているプロ野球。野球好きな人は今年、「脳しんとう」の話題を耳にする機会が増えるかもしれません。日本野球機構 (NPB) は、昨年秋に発表した通り、今季から脳しんとうを起こした選手に特例措置 (短期間の故障者リスト) を適用することにしています。詳細はまだ発表されていませんが、新しいガイドラインは、2011年に米国のメジャーリーグ・ベースボールに導入された指針を模範にしたものになりそうです。近年、国内外でスポーツにおける脳しんとうに関してさまざまな対策が取られるようになってきており、本措置もその傾向に沿った動きと言えるでしょう。
脳しんとうはスポーツで受傷することが多いにもかかわらず、症状が軽度で一時的な場合がほとんどのため、スポーツの現場では見過ごされがちでした。しかし、脳しんとうを繰り返すと、記憶障害や精神障害などが見られる慢性外傷性脳症という深刻な進行性疾患を含む慢性的な神経障害を引き起こす可能性があることが、最近の医学研究でわかってきました。脳しんとうは選手生命に深刻な影響を与えるだけでなく、長期的健康に対する大きな脅威であると認識されるようになっています。そのため、多くのスポーツで、脳しんとうが疑われる選手にはプレーに復帰する前に十分な検査と治療が行われるよう、さまざまな対策が導入され始めています。
野球は厳密に言えばコンタクトスポーツではありませんが、交錯プレーや頭部への死球などにより、頭部を受傷することも珍しくありません。NPBの新たなガイドラインは、選手の安全を向上させると同時に、脳しんとうに関する正しい知識を啓蒙することになるでしょう。NPBの決定は、医学研究の最新の知見を活用しようという、スポーツ界全体の動向を反映したものでもあります。