
長年科学者たちは、1種類または複数の抗生物質に対する耐性を獲得した病原菌が増えつつあることに警鐘を鳴らしてきました。現存の抗生物質の効果を保つため、抗生物質の乱用リスクと適正使用の重要性について公の助言がなされてきました。科学者にとっても一般市民にとっても、危険性を増している病原菌による脅威に対処する新しい抗生物質の開発は大いに期待されるところです。
耐性を持つ病原菌に有効な新しい抗生物質の開発は非常に困難なものとされてきましたが、抗生物質の開発における画期的な発見が 今年1月のNature誌に発表されました。論文の著者らは、病原菌への耐性メカニズムを進化させてきた培養されていない細菌を土壌から分離し、新しい抗生物質を開発することに成功しました。このメカニズムを利用して、病原菌の防御の弱みを突くことで効果を発揮する抗生物質を開発することができたのです。 著者らは「teixobactin(テイクソバクチン)」と名付けられたこの新しい抗生物質がいくつかの動物モデルにおいて薬剤耐性菌に対して有効性を示すことを実証しました。素晴らしいことに、teixobactinへの耐性を持つ菌が現れるまでにはこれまでの抗生物質よりも長くかかることが予想されるとのことです。
私たちが抗生物質の乱用の危険性を常に意識し、適切な服薬を心がけるべきことはもちろんですが、teixobactinの発見によって多くの命が救われ、人を死に至らしめる可能性のある病原菌の蔓延が防がれることへの期待が高まります。