
近年、鳥インフルエンザやMERSに対する不安もあり、病原体によってもたらされる世界的流行病への危機意識が世間で高まっています。
現在、伝染力の高い病原体とその拡散防止の方法に関する研究が世界中で進められています。ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部の研究チームは、世界的流行病の病原体の代名詞となっているある細菌に焦点を当てた研究を行いました。当該チームがNature Communicationsで発表した論文には、ペスト感染を引き起こすペスト菌(Yersinia pestis)に関する重要な洞察が紹介されています。
研究者らはペスト菌の進化史の調査を通じて、その進化の早い段階においてペスト菌が肺環境に適応していったことを明らかにしました。ペスト菌を感染性病原菌たらしめる特徴が示しだされる前にすでに生じていたこの適応は、実は遺伝子の非常に小さい突然変異によるものでした。ペスト菌の進化の過程の様々な時点で個々の小さな突然変異が重なったことにより、中世において何百万人をも死に至らしめた細菌が誕生したのです。
もはやペストが世界的流行病とみなされることはありませんが、このようにごく小さな遺伝子変化が既存の病原体を新たな、より危険な型に変えていく可能性があるということが今回の調査結果から窺えます。また、今回の研究は、重要な分野における前進は、必ずしも新しいものや未来を見据えたアプローチにより生まれる訳ではないことも示しています。たとえそれが数百年も過去に遡ることになったとしても、時に後ろを振り返ることによって大切な教訓を得られることもあるのです。