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絶滅種の再生は長い間SFの世界の話と考えられていましたが、その実現性が科学者や一般市民の心を捉えるようになってきています。絶滅種からDNAを取り出し、生きた動物を再生する可能性を唱える説は、1990年代に世に広まり、そのきっかけとなったのは1993年に『ジュラシックパーク』としてハリウッドで映画化された作家マイケル・クライトンによる小説でした。そして遺伝子工学への人びとの関心は、1996年にクローン羊のドリーが誕生したことでさらに高まりました。生きた動物のクローニングの成功を踏まえ、絶滅が危惧されている、あるいは野生ではすでに絶滅している種の保護という重要な課題に遺伝子工学をどのように応用できるのか、その研究が続けられています。

大部分の研究者にとって、絶滅しつつある種の保護という崇高な目的が一番の懸念事項であることは変わりありません。しかし、絶滅種を甦らせるという夢が一部の科学者にとって抗しがたい魅力であることも事実です。ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授が率いる研究チームは、マンモスから取り出したDNAを象のDNAに導入することに成功しました。この研究成果についての論文はまだピア・レビューを受けていませんが、チャーチ教授の研究チームの見かけ上の成果は、大昔に絶滅した動物を今日の大きく異なる地球環境に復活させることについて、非常に重要な倫理的問題を提起します。いずれにせよ、生物多様性の喪失が地球規模の危機として認識される今、人類が絶滅の淵まで押しやった現存種の保護に応用できる、高度な遺伝子工学を発展させることが私たちにとって喫緊の課題であることは間違いありません。