
つい最近まで、人工衛星の製造から打ち上げまでの過程は、宇宙産業が国家または国際レベルの宇宙機関と共に取り組む大事業でした。時間と膨大なコストがかかっていたことは言うまでもありません。しかしここ数年、2つの事業の発展により状況は変わってきています。携帯電話技術と民間企業による衛生打ち上げ事業です。
一般的な携帯電話と人工衛星は、製造コストは桁違いなものの、機能という点では非常に似通っています。携帯電話には送受信の機能があり、複数の帯域へのアクセスが可能で、さらにカメラ、充電池、メモリ(32GB以上)、GPS受信機、加速度計(スピードの測定)、ジャイロスコープ(姿勢の制御)、磁気セン サ(磁場の測定)、気圧計(高度の測定)を備えています。これにソーラーパネルによるバッテリーの充電機能と高度と姿勢の推進制御システムを加えれば、ナノサット(小型衛星)が出来上がります。
スマートフォンやその他の家庭用電子機器の一部(時には丸ごと)が、大規模で高価なペイロードへの相乗りという形で、または地球低軌道へのアクセスが安価かつ簡単に実現される、新興企業による実質本位の商業衛星打ち上げサービスを利用する形で、標準化された様々な形態の衛星に組み込まれています。このうち最も代表的なものが重量約1キロ、10cm四方の立方体で、「CubeSat(キューブサット)」と呼ばれる小型衛星です。これまで、様々な用途に合わせて設計された200を超えるCubeSatが打ち上げられてきました。用途の例としては、交通パターンのモニタリング(トラック運送や貨物船な ど)、農地利用の調査、太陽風などの宇宙気象現象の測定などが挙げられます。ナノサットには独立して機能し、地上の受信機に継続的にデータをダウンロードするものがある一方、複数基を同時に利用し、ネットワーク運用することで地球上の広範囲を監視することを目的として設計されるものもあります。
構造の複雑さにもよりますが、ナノサットを組み立てることのできるキットは約10,000ドルから販売されています。無料のクラウドソース型アプリケーションを使用して運用することができ、30,000-50,000ドルほどで打ち上げることができるということです。このような低価格のナノサットの登場により、大学の研究グループや小規模企業、あるいは個人でもナノサットを打ち上げることができるようになりました。それでも予算オーバーしてしまうという場合には、すでに軌道上にあるCubeSatを週単位で「レンタル」するという手もあります。借りたCubeSatは自前のアプリケーションで再プログラミングし、目的の実験を行った後、レンタル期間の終わりにソフトウェアをすべて削除することができま す。ナノサットの寿命は、放射線障害や希薄な上層大気の抵抗の影響を受けるため数年と限られていますが、「使い捨ての人工衛星」は毎年新しいものと交換 (そして改良) しても問題にならないほど低費用で組立・運用ができるのです。
打ち上げ費用は急速に低下していくことが予想されます。製造されるナノサットの数が増えるに従い、打ち上げの際のスケールメリットが高まるからです。例えば、通常相乗りによって衛星軌道まで運ばれる数十基のCubeSatは、主体のペイロードが配置された後、バネの力でランチャーから宇宙空間に放出されます。さらに、ナノサット打ち上げビジネスにおいて価格競争が進行しています。現在ナノサットの打ち上げを行っている、または1年以内に打ち上げサービスを始める予定の民間企業は5社に上ります(参照:http://www.isispace.nl/cms/, http://generationorbit.com/, https://www.orbital.com/)。一連のサービスをセット販売する打ち上げ企業もあります。カリフォルニア州のInterorbital Systems社はミニ・ナノサット・キットと打ち上げのセットを8,000ドルで提供しています。コミュニケーション技術の汎用化が進むことで、小型衛星はますますコンパ クトで安価になり、価格競争によって打ち上げコストはさらに下がっていくでしょう。今後ナノサットのどのような活用法が登場するのか、楽しみなところです。