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恐竜やマンモス、太古の海生爬虫類など、絶滅した生物への私たちの興味は尽きることがありません。もはや実際に目にすることのできない生き物の珍しさと、化石をもとにその姿を再現しようという挑戦に、私たちの好奇心が駆り立てられるのでしょう。 ごく最近まで、先史時代の動物の色素に関しては、科学者の想像のみにゆだねられてきました。ところが今、最新の科学技術を駆使して、何百万年という時を超え、化石からその動物が生きていたときの体の色を再現することが可能になったというのです。

今月のNature誌でスウェーデンの研究グループが、 先史時代の海生爬虫類3種の化石の皮膚サンプルに含まれる黒い色素の化学的痕跡を発見したことを発表しました。3種の海生爬虫類とは、古代のオサガメ、トカゲに似た水生爬虫類モササウルス、そしてイルカに似た海生爬虫類のイクチオサウルスです。研究グループによると、黒い色合いはそれぞれの系統で独自に進化したもので、暗い深海環境への適応や、冷たい水中での体温調節といった役割を担っていたことが考えられるということです。

絶滅した生き物の色合いを化学分析の手法を用いて再現しようという試みは、これまでにも行われてきました。昨年、Journal of Analytical Atomic Spectrometry誌に、1億5千万年前の鳥類の羽毛の化石をシンクロトン放射光を使って解析した論文が掲載されました。 著者らは、この鳥類―かの有名な始祖鳥―の羽には、カササギにも似た白と黒の配色が施されていたことが想像されるとしています。 このような技術を使った研究が非常に興味深いことは確かですが、これには限界もあります。動物の外観を決定的に左右する皮膚、毛、羽毛は分解の速度がかなり速く、特別な状況が揃わない限り化石として残りません。そのため化石には骨のみが残っていることが多く、動物の皮膚や羽毛の色を特定するためにはまったく役に立たないのです。加えて、皮膚や羽毛の色を特定するための化学組成の分析精度に疑問を持つ科学者もいます。Biology Lettersに発表された研究では、鳥の羽毛から得られた色素の化学的痕跡は化石化の過程で組成が変化しているかもしれず、さらに一部の鮮やかな色素は完全に消失し、暗色の色素のみが残っている可能性があると指摘しています。

絶滅した動物を生き返らせることは恐らく不可能でしょう。どんなに科学技術が進歩し意のままに使えるようになったとしても、古代の化石から生きている動物を再現する試みが知識に基づいた推測の域を出ることはありません。とはいえ、技術の発展に伴い推測の精度は日々向上しています。未来の技術革新が、過去に通じる扉を開ける日は近いかもしれません。