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近年ミツバチコロニーの減少が取沙汰されています。ミツバチが蜂蜜産業の根幹をなすことは言うまでもありませんが、ハチはまた、商品作物の受粉においても欠かせない存在です。彼らが何十億ドルに値する産業を支えていると言っても過言ではありません。商品作物への需要が高まるなか、一刻も早くミツバチ減少の原因を突き止めること、そしてその解決策を見極めることが求められています。

しかしこれはハチに限ったことではありません。Frontiers in Ecology and the Environmentに発表された論文は、土地利用から外来種の導入に至るさまざまな人間の活動が、農作物や野生植物の受粉に欠かせない種々の昆虫に深刻な影響を与えていると警告しています。そしてこのことは近い将来、経済のみならず環境への影響というかたちで私たちに跳ね返ってくるだろうと言うのです。

ミツバチ減少の原因としてダニの蔓延やウイルス感染などいくつかの説が出されていますが、ネオニコチノイドと呼ばれる化学物質が原因だという主張が最も有力な説とされています。これまでに示された科学的根拠をもとに欧州連合(EU)は今年、ミツバチ受粉を必要とする作物に対するネオニコチノイド系農薬の使用を禁止することを決定しました。

しかしPLOS ONEにこのほど発表された最新の調査結果では、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止だけでは到底十分とは言えないことが示唆されています。Dennis vanEngelsdorpを中心とした研究グループは、殺菌剤を含む他の農薬がハチの腸内寄生虫に対する防御力を低下させ、死に至らしめることを明らかにしました。特にクロロタロニ ルとピラクロストロビンという2種類の殺菌剤を体内に取り込んだハチは、致命的な寄生虫に感染する確率が2倍になることが分かっています。

vanEngelsdorpらの研究は、実際の環境条件のもとで農薬がハチに与える影響を初めて調査したものです。これまでハチにとって安全性が高いとされ、他の農薬ほど厳しく規制されてこなかった殺菌剤を特定したという点においてこの研究成果は注目に値すると同時に、問題解決への重要なカギとなることが期待されます。著者らは、病原菌への抵抗力を弱めることでハチを間接的に死に至らしめる可能性のある殺菌剤やその他の化学物質の影響をさらに詳しく調査する重要性を呼びかけています。

消えゆくハチの謎は複雑な問題であり、その解明に向けた多角的なアプローチが求められています。EUによるネオニコチノイド系農薬の使用禁止は評価すべき第一歩かもしれません。しかし、vanEngelsdorpらが戒めるように、ミツバチを含め花粉を運ぶ種々の昆虫が安全と言える状況にはまだ程遠いのです。