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長引く経済危機は世界中の国々に大きな打撃を与えています。膨らみ続ける負債と減り続ける資本を抱え、経済の自然回復が見込めるかどうかも定かではない中、主要国の政府は緊縮予算を組み、思い切った経済措置をとることでそれぞれの経済危機を乗り切ろうとしています。この財政支出の削減が、あらゆる行政サービスに影響を与えています。科学研究費予算も例外ではありません。

アメリカでは歳出強制削減が発動され、ヨーロッパ各国は緊縮財政路線を打ち出しています。現行の研究プロジェクトとその未来はどうなるのか、研究者たちにとっても先行き不安な時代が続いています。アメリカでは国立衛生研究所だけをみても2013年度予算から15.5億ドルの削減を迫られており、一方イギリスでは2010年度に行われた資金再配分によって科学研究予算が削減され、研究者たちは研究資金のカットや凍結の可能性に危機感を募らせています。 緊縮策の規模の大小に関わらず、主要な研究資金提供機関が資金提供をストップすることはないと思います。しかし研究費を切り詰めざるを得ない研究者たちも出てくることでしょう。

日本でも同様に、科学技術予算が大幅削減の危機に直面し、政府の事業仕分けによって科学予算の見直しが迫られたことはまだ記憶に新しいことと思います。しかし新しい政権の下、科学研究費に対する政策も方向転換の様相を見せています。2013年1月、政府は過去最大の増額規模となる科学研究費補助金の予算案を打ち出しました。いずれにしても、このような日本での政策の転換が欧米でも見られることになるのか、先行きはいまだ不透明な状況にあります。

現在、世界の経済学者や政府機関は差し迫った経済課題に対処するため、短期的な政策を優先的に押し進めています。科学研究は社会に経済的利益をもたらし、 医療を改善し、私たちの生活の質を向上する重要な役割を担っています。一方で、研究成果とその効果が得られるまでには何年もかかることは科学研究の性質としてやむを得ないことです。科学的イノベーションの欠如によって、将来、経済的悪影響がもたらされるような状況は避けたいものです。そのためにも、科学研究発展の勢いが失われることのないよう、しかるべきバランスをとることは不可欠と言えます。