特集記事

- A.S., エディター

科学研究における潜在的バイアスと、そのバイアスへの対処の仕方は、研究活動の質および妥当性の重要な指標です。業界と研究機関との深まりゆく関係は学界の懸念材料となっており、特に生物医学分野では利益相反によるバイアスが懸念されています。 例えば、企業の支援が研究結果に及ぼす影響を検討した過去の調査では、企業スポンサー型研究の方が良好で有効性の高い結果が得られやすいことが分かりました。

研究者も医師も、医薬品や機器の製造会社によって医学研究の結果にバイアスがかかると、患者の最善の利益が考慮されずに臨床診療全体の動向が歪み、ひいては重大な倫理的ジレンマが生じると認識しています。最終的に市場に流通する医薬品や医療機器の価格・種類が左右されるだけでなく、研究結果によって決定される法政策にも影響が及ぶ可能性もあります。最近の事例で、世界の学術界と米国民の双方から厳しい詮索を受けているものがあります。電子タバコのメーカー、ジュール・ラブズ社が51,000ドルでAmerican Journal of Health Behavior(AJHB)誌の特別号をまるごと買い取った一件です。この特別号には、同社製品を含む電子タバコの使用に関する11件の研究が掲載されています。

米国食品医薬品局(FDA)は先日2021年9月9日に、電子タバコ全ブランドのマーケティングと販売について裁定を下しました。FDAが考慮する要素の一つは、電子タバコの使用は現喫煙者が禁煙する助けとなるのか、逆に非喫煙者に喫煙を促すことになるのかということです。FDAは、何百万もの数の電子タバコ製品について市場から排除するよう製造者に命じました(記事作成時点)。しかし、ジュール社の製品についてはさらに検討が必要との理由で裁定は延期されました。

AJHBの特別号に掲載されたジュール社の製品に関する研究の多くが、電子タバコの恩恵を受けるのはそれ以外の方法では禁煙できなかった現喫煙者で、結果として公衆衛生が改善されると結論付けています。これらの研究は、オープンアクセス記事としてAJHBのウェブサイト上で公開されており誰でも閲覧できます。ジュール・ラブズ社の支援を受けた研究がFDAの裁定にどう影響するかについては注目されるところですが、利害関係を完全な透明性のもとで開示することが科学研究を行う上で欠かせない慣例であることに疑う余地はありません。

英語版はこちら