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- G.A.,シニアエディター

2025年5月、議論を呼ぶ米国の大統領令が、政治任用者を連邦政府の研究助成金の審査を担う責任者に任命し、科学的情報を「修正」する権限を与えたことで、科学者たちの間で強い懸念が生じています。この「Restoring Gold Standard Science(ゴールドスタンダードサイエンスの復活)」と題された指令は、再現性と透明性を重視しつつ、研究を政権の優先事項に沿わせることを目的としています。 しかし、この大統領令は専門性よりも政府の意向に沿うことを優先しているため、科学的誠実性の基盤である研究内容の質に基づいた査読プロセスを損なうと批判されています。6,000人以上の科学者が公開書簡に署名し、このような監督が異なる意見を抑圧し、革新を妨げる可能性があると警告しています。

大統領令の影響は既に研究に支障を来しています。国立衛生研究所(NIH)や国立科学財団(NSF)などの機関は助成金の審査を一時停止しており、研究者は資金調達の見通しが立たない状況に陥っています。この指令は、従来の「正当な理由」による基準を無視して「便宜上の理由」で助成金を打ち切ることを政治任命者に認めており、気候変動や多様性など政治的にデリケートなテーマの研究プロジェクトが中止されるかもしれません。このような制度変更は、政治的な影響力が証拠に基づいた意思決定よりも優先される可能性があり、重要な研究の遅延、米国の科学的成果の低下、科学に対する人々の信頼の損失を招くおそれがあります。

この動きは、他国でも科学への政治介入に対する懸念を招いています。ドイツやカナダのような研究の歴史と実績を持つ国は、独立した査読によって信頼性を確保しています。かつて国家の主導により疑似科学が広がった例に見られるように、米国の措置は、権威主義的な政権が科学研究をさらに統制する動きを後押しするかもしれません。各国の研究機関などは政治的監視下にある米国機関との協力を躊躇する可能性があり、国際的な研究協力を脅かしています。

大統領令は科学の厳密さを高めるとされていますが、革新を可能にしてきた研究の独立性を損なうリスクも抱えています。世界の科学界は、信頼と科学の進歩を維持するために、独立した証拠に基づく研究の重要性を訴える必要があります。国際的な研究協力の構造が変わるかもしれないため、世界中の科学者はこれらの動向を注視し続けるべきです。

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