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- G.A., シニアエディター

心理学的研究領域は、その領域における再現性の危機と思われる状態をめぐる論争のため、最近メディアの厳しい目にさらされています。過去の画期的な研究結果の多くが再現できないことが判明してきていることから、研究者の間で激しい議論が巻き起こっています。

今回の論争がきっかけとなり、心理学の分野に出版バイアスが存在しているのではないかという懸念が高まっています。出版バイアスとは、出版された研究成果が、行われている全ての研究の全体像を代表していないことをいいます。研究者も投稿先の科学誌も、新規性や独自性のある内容を出版したいと考えるため、研究者は仮説を実証する結果が生まれた研究だけを論文にまとめることにし、科学誌はその論文だけを出版することに重点を置きがちになります。その結果、期待した知見が得られなかった多くの研究が未発表となるのです。

オープンアクセス誌の「BMC Psychology」は、一部の投稿者に「研究結果を含まない」ままピアレビューを受ける機会を与える実験を行っています。査読者たちは、研究結果を含まない論文をレビューするため、自ずと研究の理論的根拠と研究者の方法論の評価に重点を置かざる得なくなります。このレビューの結果、論文が「基本的に受理」されると、査読者たちは研究結果の含まれる論文を再びレビューする機会を得るのです。

こうした変則的な方法が広く採用される可能性は低いとはいえ、再現性や出版バイアスの問題に取り組もうとするBMC Psychologyの姿勢は、専門分野にかかわらず、すべての研究者にとって重要な意味を持っています。科学は論文として出版された知見の積み重ねの上に成り立っており、論文の信頼性を向上させる取り組みは、次世代の研究者に恩恵を与えるためです。