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- K.N., シニアトランスレーター

翻訳プロセスは通常、翻訳、翻訳チェック、校正という流れで行われます。高品質の成果物は翻訳者や校正者のおかげとされることが多く、翻訳チェッカーの貢献は見過ごされがちです。今回は翻訳チェッカーの役割とその翻訳プロセスにおける重要性について検討してみたいと思います。

原文の曖昧さや日本語・英語間の翻訳特有の難しさなどいくつかの理由により、出来上がった翻訳が必ずしも原文の意図する意味を明確または十分に反映していない場合があります。翻訳チェッカーは、間違い探しのように目を凝らして原文と翻訳を照らし合わせ、原文の意味を確実に伝えるために訳文をより適切でわかりやすい文章に仕上げます。このように翻訳の正確性と完全性を確保することで、翻訳チェッカーは翻訳全体の品質を向上させます。

異なる言語間でほんのわずかでも意味の食い違いが生じていないかチェックするのは大変骨の折れる作業です。特に日本語・英語間の科学系翻訳では、内容が非常に高度な上、長文が多く、言語構造の違いから語順が大きく異なるため念入りなチェックが必要になります。チェック作業には、極めて高い集中力、細部へのこだわり、高度なバイリンガル能力が要求されるのです。そのため、翻訳者や校正者と同様に翻訳チェッカーも類いまれなスキルを併せ持つことが必要なのです。

翻訳チェッカーという職種は、「翻訳者への足掛かり」と見なされることもあります。確かに翻訳者になる上で、翻訳チェック業務の経験は役に立つでしょう。しかし、翻訳チェッカーは、翻訳者になるための単なるステップではありません。翻訳チェックは非常に特殊な作業であり、複数の段階からなる翻訳プロセスにおいて欠かせない要素であることを念頭に置くことが重要です。