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- G.A., シニアエディター

英科学誌ネイチャー2016年5月12日号のコラム記事「World View」で、アリゾナ州立大学科学・政策・アウトカムコンソーシアムのダニエル・サレウィッツ教授は、学術出版を取り巻く危険な状況について説明しています。教授は、増え続ける学術誌とそれらに掲載される論文数の増加により、科学文献の全体的な質は低下する恐れがあると指摘しています。

350年以上前に最初の学術誌が出版されてから、科学的アウトプットは増加の一途をたどってきましたが、デジタル時代を迎え、学術誌の数も論文数も毎年うなぎ登りに増えています。この勢いは衰えるどころか加速しているようで、あまりの出版物の多さに科学的に重要な知見が見過ごされてしまうのではないかと危惧する声も聞かれます。

サレウィッツ博士によれば、科学文献のSN比 (質の高い文献とそうでない文献の比率) を改善するには、出版社と科学者の双方の努力が必要です。言うまでもありませんが、学術各誌は掲載原稿の選別をより厳しくすることで、出版物の質を向上させることができます。一方、科学者は論文の投稿数を減らしたり、投稿の間隔を空けたりすることで、アウトプットを抑制することができます。

研究者の出版物一覧は、各自の昇進、助成金獲得、および専門分野における知名度と密接に関係しているため、投稿ペースを落とすことや投稿内容を慎重に吟味することを、すべての研究者に納得させることは難しいでしょう。しかし、若手研究者の意識が出版数や出版の頻度を過度に重視しない方向に変わっていけば、科学コミュニティの長期的な発展につながる可能性があります。学術出版における優先順位を量から質に転換することで、質の高い研究が見落とされてしまうことを避けることができ、学術研究に対する社会の投資利益を高めることが可能になるかもしれません。