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– G.A., シニアエディター

英科学誌ネイチャーは、オーストラリアの連邦科学産業研究機構 (CSIRO)が突然科学政策を変更し、重点研究分野の見直しに入ったと2月に報じました。CSIROは、現在の気候変動を記録・分析している国内外の数千人の研究者を後押しするかのように、気候変動が起きていることはすでに確認されたと示唆しました。ところが、地球温暖化が事実であると認めると同時に、気候に関する基礎研究は確認済みであるためもはや必要なくなったとほのめかす大胆な主張を展開しています。 CSIROの今回の声明は、気候変動の脅威をもっと認識して欲しいと考えていた人々には朗報として歓迎されましたが、科学者たちには手放しで喜べない内容でした。

CSIROの発表によると、最高で350人の研究者が解雇される予定で、気候科学部門の人員削減が最も多くなる見通しです。CSIROは気候研究から完全に撤退するつもりなのかという疑問に対し、理事長のラリー・マーシャル氏は、研究者損失の穴を埋めるためにテクノロジーを活用することを示唆し、気候データの収集を続けていく方針を改めて明らかにしました。その一方で、CSIROはオーストラリアのニーズに応える必要があり、最も重要なニーズはイノベーションを実現すること、具体的にはオーストラリア社会にメリットをもたらすイノベーションを創出することだと強調しています。

資金提供機関と科学者の間で、科学研究の方向性をめぐって意見が対立することはよくあることです。特に現在は経済の先行きが不透明なこともあり、政府系の資金提供機関は国民の圧力を受けて厳しい状況にあります。科学者はCSIROによる重点研究分野の変更を批判するかもしれませんが、機構の予算や活動が国民の厳しい監視の目にさらされていることを考えれば、今回の方針変更は理解できないものではありません。CSIROの状況は、科学者が自分たちの行っている科学研究の重要性を国民に直接訴えることの必要性を再認識させてくれました。科学者自身が情報発信を行わなければ、「研究を行う側」よりも「資金を出す側」の主張に国民は簡単に耳を傾けることになるのです。