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- S.S., エディター

複雑化が進む今日の社会環境では、問題の解決策を多様な視点から探ることは得てして有用な手段と言えるでしょう。事実、学際的研究 (interdisciplinary research; IDR)における取り組みでは、専門化・細分化された学問間の壁を破り技術革新を進める試みにおいて、様々なアプローチを結集することにより、それぞれのメリットによる相乗効果が生まれると考えられています。 しかし、IDRは実際のところ期待されるほど効果的な方法となっているのでしょうか。

イングランド高等教育財政カウンシルの委託を受け、2009年から2013年までの期間における英国(および比較対象国)の学際的研究の質をエルゼビア社が調査し、 その結果が先日発表されました。この調査では論文引用に基づく手法が用いられ、論文中に専門や内容が「かけ離れている」文献が引用されているものを学際的研究であると見なし、それらの研究の被引用度を評価しました。いささか意外なことには、すべての比較対象国において、IDRスコア(学際的傾向を点数化したもの)で評価された全論文のうち、スコアの高い上位10%の論文の被引用度が低いことが示されました。つまり、学際的アプローチに基づいて行われた研究ほど、他の研究に比べ論文の被引用度が低いことが分かったのです。逆に、これら上位10%のIDR論文は特許申請書においては被引用度が高いことが明らか になりました。

この結果からIDRについてどのようなことが言えるでしょうか。われわれが期待していたような革新的研究成果はIDRによってもたらされなかったと結論付けるべきでしょうか。否、そうとは限りません。特許申請書における科学論文の被引用度は、技術開発を評価する一つの尺度です。IDR論文の他論文における被引用度の低さには確かに多くの理由が考えられるでしょうが、IDRは、研究成果の応用を促進し、産業ニーズへの実用的ソリューションを展開する術を見出すことを目指す応用研究においてこそ、その真価を発揮するのかもしれません。そのため、被引用度だけでIDRの価値を判断することはできません。IDRの価値をより良く理解するために、今後さらに踏み込んだ調査が待たれます。そして、そのような調査はきっと興味深い結果をもたらしてくれることでしょう。


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