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- G.A., シニアエディター

10月初旬、世界で最も権威のある医学ジャーナルの一つとされる『ランセット』の編集委員長が、同誌に掲載された公開書簡への批判に対処するためイスラエルを訪れました。2014年7月8日から8月26日に渡りガザ侵攻が続く最中、編集委員長であるリチャード・ホートン教授はイスラエルの行動を非難する「ガザの人びとへの公開書簡」 の掲載を許可しました。 その結果、発表された書簡に対し、イスラエルとガザを取り巻く状況への著者らの解釈に異議を唱える人々から強い反発の声が上がりました。興味深いことに、国際社会では、医学ジャーナルはこのような政治的意見を発表する場ではないと指摘する、より大きな反響が寄せられています。

科学者の多くが強い政治的信念を持ち、一部は政策の立案など政府の仕事に直接関わっていることは事実ですが、『ランセット』に掲載された書簡は、学術出版と他のメディアとを隔てる一線を越えてしまったようです。

ホートン教授が謝罪し、さらにイスラエルを訪れて宗教指導者や医療関係者、研究者らと対話の場を設けたことにより、対立が深まる事態は避けられたようです。しかし今回の経験は、学術ジャーナルの存在する目的だけでなく、掲載に相応しい内容とはどのようなものかを再考する良い機会を与えてくれました。現今のセンシティブな政治情勢の中、研究者は、政治的メッセージの拡散目的で学術ジャーナルを利用することに慎重になるべきです。読者数を増やし、インパクトファクターを上げたいジャーナルは、ともすれば科学的論争を巻き起こすような内容を歓迎するかもしれません。しかし、政治的な物議を呼ぶことで、ジャーナルの評判そのものが問われる事態にもつながりかねません。