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- S.T., エディター

学術ジャーナルの購読料が高騰の一途を辿っています。すでに相当な負担を強いられている多くの研究者や図書館員が、毎年上昇する購読料に疑問を抱くのも当然と言えるでしょう。

従来、学術ジャーナルでは著者や編集委員、査読者に報酬が支払われることはありません。ジャーナルの出版経費は、通常著者から徴収される掲載料で賄われているからです。 学術出版界においては当初、小規模ジャーナルは基本的に非営利組織であり、流通にかかる経費を最低限カバーし得るだけのコストを著者・読者が負担するモデルが踏襲されていました。その根底にあったのは、研究活動から得られた知識と技術を広めることは公益に値するという概念であり、この概念に基づいて研究者は無償でジャーナルの仕事を引き受けてきたのです。

しかし、出版事情は変わってしまいました。エルゼビア、シュプリンガー、ワイリーをはじめとする商業出版社が学術雑誌を多数発行するようになり、採算性を目的に価格を徐々につり上げています。年間購読料の上昇が出版社いわく「業界で最低レベルのたったの5%」だとしても、すでに年間1万ドルもの購読料を支払っているとしたら、5%はかなりの値上がりに相当します。

つまり大学や研究機関に所属する研究者がジャーナルに無償で貢献しているのに対し、これらの機関に附属する図書館は論文へのアクセスを買い戻さねばならないという事態が起こっているのです。

自分の分野で最も質が高いとされる研究に関する論文を読みたいと思う研究者は、その分野で独占的な地位を占めているジャーナルや、現在その分野でインパクトファクター第1位を獲得しているジャーナルを選ばざるを得ません。このことを承知で、また大学附属図書館がこれらのジャーナルの購読料を払い続けることを知っているからこそ、出版社はジャーナルの価格をつり上げることができるのです。 これを経済学では「価格非弾力性」と呼びます。

しかしそこには膨らみ続ける経費の問題があります。大学附属図書館はこれまで予算の大半を学術図書の購入に使っていました。ところが今ではその予算のほとんどが学術ジャーナルの購読料に充てられています。そればかりではなく、今やどの大学や研究機関も経費削減を目指しており、図書購入費は最も削られやすい分野のひとつと言えましょう。購入タイトル数の確保が年々難しくなる一方、ジャーナルの価格は上昇するばかりです。図書館は、購読料に充てる予算がどんどん削られているのに、高騰する購読料を支払わなければならないというプレッシャーにさらされているのです。この状況は学術界で「シリアルズ・クライシス(雑誌の危機)」と呼ばれています。

この危機的状況が特に顕著になった例として、ハーバード大学図書館の諮問委員会が2012年に発表した文書があります。ハーバードは、ある出版社2社のオンラインジャーナルの購読料が2006年から2012年の間に145%上昇したことに対して懸念を示しており、このようなシリアルズ・クライシスを打開するためには、オンラインのオープンアクセスジャーナルに切り替えるのが最善策であると提案しています。つまり、オープンアクセスこそが、大学図書館の抱える予算問題の解決の糸口になるということです。


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